PROFILE

ごあいさつ

日本では昔から木や石にも心があるように言われます。七夕で笹竹に短冊をさげて星にお願いしたり、十五夜の月にお団子を供えたり、朝日を敬い山や滝を神として崇めたりもします。日本の「いけばな」もそのような民族としての記憶です。そのような国に私も生まれました。日本の伝統文化としての「いけばな」に関心がでていた三十路のころヨーロッパの花文化が気になって、フラワーアレンジメントを学ぶためにオランダとドイツへ二年半ほど渡欧しました。そこで日本とのちがいに驚きました。その国で学ぶ生徒の姿勢や教科は日本と異なるものでした。クラッシック音楽を聴きながらその印象をアレンジメントしたり、美術館巡りをしたあと、そこで感じたものをフラワーアレンジで表現する科目には心が弾みました。野原や森の中を歩きまわって自分が摘んできた花を活けたときは花への思いが深くなる不思議な体験をしました。日本とは異なる花の種類や草木の自然、街やそこで生活する人々の花との関わりも学校での授業に加えて楽しいものでした。ヨーロッパから戻ってしばらく私の「いけばな」は西洋の模倣をしたデザインが多かったようです。もちろんそれはそれで素晴らしいし影響されるのはいいことと思いますが、それでもやはり日本の「いけばな」は日本固有の風土や文化につちかわれたもの、季節の花材やいろんな器を生かして自分が感じる思いが飾り気なく風情がすっきりと表現できればと思っています。

花を活ける器には銅器、陶磁器、竹や木を使ったもの、ガラスの花瓶、それにボトルやピッチャーなども使います。それらの器を「花いけ」ともいいます。「花いけ」はそれ自体が丹精を込めてつくられた作品です。「いけばな」は花と「花いけ」とが一体になる作品だと思っています。

「いけばな」は自分の感じた思いを花に託して表現しますが、そのような素敵な「いけばな」と向き合える時間が幸せです。心にかなう姿を探して花に鋏を入れます。一輪を際だたせるためですが切ることは選ぶこと、選ばれた花には切り落とされた花や枝葉からの託された思いが込められていると思います。未練をたつ思い切りですが、生を受ければ一瞬でも長く姿をとどめたいと願うのは花も同じだと思います。もともと野にあった花に人の手を加えて、どうして・・・と思ってしまいます。

「いけばな」は言葉にはできないことと思います。ただ、花を活けることで、私がまだ知らない自分を開花できたり、自分にとって本当に大切なことは何かを忘れずにいれたらと思っています。私にとって花は自分の心を豊かにするもの、それで十分だし精一杯のところです。しかし、私や生徒さんが活けた花を誰かが見てその人の心に響いたり感じ取ってもらえる何かがあればそれはそれで私は嬉しいし、花も自分も、ありがとうと言っているように思えることがあります。そのようなときがとても幸せです。

中村 晴美

中村 晴美
Nakamura Harumi
■草月流一級師範常任総務
■日本フラワーデザイナー協会 審査員・NFD講師
■オランダ Dutch floral desigh Dipioma
■ドイツ プリザーブドフラワー Diploma


PAGE TOP